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蜂の隠喩

『ブゴニア』と『ビーキーパー』、そしてマンデヴィル

zadgy5534
Sep 29, 20261 min read

ルバーウィーク中に配信で観たうち、2本の映画が養蜂に触れていて、しかも両者がどこかシンクロもしくはオーバーラップしている感じもして、ちょっと気になったので、ここに記しておきましょう。

一つは、『ブゴニア』(ヨルゴス・ランティモス監督、2025)です。韓国映画のリメイクだそうで、オリジナルは観ていませんが、トンデモな宇宙人系の陰謀論に取り憑かれた男たちが、薬品メーカーのCEOを誘拐・監禁するというプロットはほぼ同じだとか。あまたの誘拐・監禁ものでも、陰謀論がらみの妄想系というのはあまりないように思います。その点がちょっと新しい気がしました。
https://www.imdb.com/title/tt12300742/

で、この主犯(今やランティモス映画の常連になっている、以前の「メス・デイモン」ことジェシー・プレモンス)が、趣味で養蜂をやっていて、監禁されたCEO(こちらも常連のエマ・ストーン)と、ミツバチについて語り合う場面などがあります。これまでも、環境問題絡みなどで言及されることの多かったミツバチですが、この映画では、むしろ人間社会の組織そのものに寄せて、それを暗示するというふうですね。

タイトルの「ブゴニア」そのものが、死んだ牛からミツバチが自然発生するという古代の俗信のことです。ウェルギリウスの『農耕詩』にあるほか、10世紀のビザンティンで編纂された農業技術集成である『ゲオポニカ』には、ミツバチを採集するために牛を殺すという、古代ギリシアで行われていた(実際に行われていたかは不明ですが)儀式についても書かれているのだとか。

映画は最後にどんでん返しがあって、人間が全員倒れて息絶えてしまうような風景が描かれるのですが(これ、ある意味、詩的な美しさすらあります)、個人的には、あえてこれを、かつてのクロード・ルルーシュの「迷作」、『ヴィヴァ・ラ・ヴィ』のラストのように、極度のストレス下におかれたCEOが狂気のさなかに見た「妄想」のように受け取りたい気にすらなります。

もう一つは娯楽作品で、ジェイソン・ステイサムのアクションもの、『ビーキーパー』(デヴィッド・エアー監督、2024)です。タイトルどおり、養蜂家になった元最強のエージェントが、社会そのものの養蜂家のごとく、社会秩序を守るため、悪人たちを叩きのめしていくという、どこかで聞いたような、おなじみのシチュエーション、おなじみの話ですね。ステイサムが強すぎて、ちょっと引いてしまいそうになります(笑)。
https://www.imdb.com/title/tt15314262/

勧善懲悪話は、いつもどこか逆説的です。悪を倒す善の側の行為も、やはり悪じゃないの?というわけです。そしていつも、勧善懲悪をもたらすのは、社会の「外部」です。たとえば社会からはみ出した者とか。そうした外部があってこそ、悪でもって悪を懲らしることができる、と相場は決まっているかのようです。

ミツバチに絡めて言えば、ここではやりバーナード・マンデヴィル(17世紀の医者・風刺家)の『蜂の寓意――私悪すなわち公益』が思い起こされます。同書は、副題が示すとおり、たとえば奢侈的な消費が経済発展を促すというように、私的な悪と公益とが結びついている逆説的な状況こそが人間社会であり、善と悪とが表裏一体であることを説いています。悪にも善を導く契機になるなどの、なにがしかの効用があるのだ、というのですね。逆に悪のない世界、完全な統制が効いたミツバチのごとき世界を、理想としてそのまま取り込もうとしても、それはひどく殺伐とした、とても侘びしい世界にしかならないのでは、と。

『ブゴニア』の主犯が目指していたのは、そのような逆説的に荒廃した世界だったのかもしれません。最後の風景をCEOの妄想と取らないならば、外部の力によって、それは実現してしまったのかも……。一方、ステイサム映画で守られる社会秩序というものも、暴力的なものが排除される世界ではなく、あくまで一時的に、社会の一部が、外部の力によって刈り取られるだけのことで、その基本構造は変わらないような「悪しき世界」です。

大変革か現状維持か。いずれにしても、ここで重要なのは「外部」の参入でしょうか。ここで疑問が湧いてきます。では、蜂の組織に対する養蜂家の関係のごとく、人間の社会に関与しうる外部とは何に相当するのでしょうか。変な神秘主義などに逃げ込まないのを前提で考えるなら、これは大いに気になる問いです。

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